「ファシリテーションって、ご存知ですか?」
と、研修等の場でお聞きすることにしています。
手を挙げる方は大体半分ぐらいでしょうか。
最近では認知されるようになったこの言葉も、やはりまだ知らない方や、聞いたことはあってもどういうことかはっきりとは理解していないという方も多くいらっしゃいます。
この記事では、私の知識と理解も含めて、ファシリテーションって何?という疑問にお答えしたいと思います。
ファシリテーションの定義
ファシリテーションとは、英語のfacilitatieという動詞を名詞の形にした言葉です。
facilitateは「容易にする、促進する」という意味で、元来は何にでも使える広い意味の言葉です。
それが転じて、企業の会議や公共のタウンミーティング等の議論の場で、参加者の発言を促進し、意見を整理して、結論が決まるように支援する行為のことを主に表すようになりました。
より広い意味では、1回の会議だけではなく、複数の会議を重ねるプロジェクトの推進や、長期的な組織の変革を支援すること等、集団活動・組織活動を促進すること、を指します。
つまり、狭義には「対話の場を促進すること」、広義には「集団活動を促進すること」と言えます。
よく言われるのは前者の方ですが、もっと平易に言うと、「意見を引き出し、まとめる」ということになります。
いずれにせよ、参加者全員の「合意形成」を図り、支援する行為です。
ファシリテーションの特徴
では、今までのやり方と何が違うのか?昔から会議に司会はいたじゃないか?
というもっともな疑問が浮かんでくるかもしれません。
そうなんです。ファシリテーションは「形」の話ではないのです。
「中身」が問題なのです。
同じように司会進行をしていても、「ファシリテートするという意図があるかないか」が問題です。
ここがすごく大事なところです。
「司会」が、議事進行を決めた通りに行なって、参加者の意見表明や納得が足りなくても形式的に決定することを意味するとすると、「ファシリテーション」は、全員に意見を表明してもらい、形だけの決定ではない「納得」を得た上で、集団としての意思決定を下すことを支援します。そして、そのために必要な意見の理由の掘り下げや、論点の整理、判断基準の決定等の一連のプロセスに関わります。つまり、「司会」よりもずっと積極的に議論の過程に関与するのであり、「姿勢」が違うのです。
最も大事にすることは「全員の参画と、納得の元での決定」。
そのために、以下の三つのことを重んじることに特徴があります。
⒈ 当事者主体
主役は会議の参加者です。進行役は意見を言わず、参加者自身が考え、発言できるように参加者目線で関わります。
⒉ 中立的
どの参加者も、立場の違いに関わらず尊重し、公平に扱います。具体的には、発言機会が偏らないように配慮し、発言しづらい人を支援します。
⒊ プロセス管理
意見の内容ではなく、雰囲気づくりや話し合いの方法を考えることに徹します。
ファシリテーターとは
ファシリテーションを行う人のことを「ファシリテーター」と言います。
これには二つ意味があって、その時その場での役割を指す場合(この会議のファシリテーターは鈴木さんです)と、一方で、「私の仕事はファシリテーターです」という固定的な職業を表す場合があります。
いずれにしても、「ファシリテーション」はあくまで行為であり、「機能」です。
つまり、みんなが話しやすくなるのであれば「誰がやってもいい」と考えることができます。
参加者の立場でも、さりげなく、「まず自己紹介しませんか?」や「一回、みんな意見出しませんか?」等と振るなら、それは立派に「ファシリテーション」です。
こういう行為を「隠れファシリテーション」と言ったりします。
ファシリテーションの現場
ファシリテーションが行われる現場は色々ありますが、代表的な分野としては、ビジネス、公共、教育、アート等があります。
ビジネス分野では、企業はもちろん、医療や福祉等も含め、およそあらゆる「職場」における会議の進行がそれに当たります。
公共分野では、住民の意見を聞くタウンミーティングやワークショップの進行。例えば、道路等の建設計画や公共施設の統廃合等に意見を反映させることで、住民ニーズに適った政策を実現し、後戻りのない円滑な合意形成が図られています。
教育では、「アクティブ・ラーニング」等の「参加型」で行う授業に取り入れられ、生徒・学生の思考、議論、表現を活性化することに役立てられています。
アートでは、「対話型鑑賞会」等、単に観て終わりではなく、対話を通して理解を深めるための場の進行に取り入れられています。
ファシリテーションの効用
早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け
アフリカの諺
これはアフリカの諺ですが、ファシリテーションの効用を一言で言えと言われたら、私はこの言葉を引用します。
集団の合意形成には時間も手間もかかります。それは確かに楽ではありません。
企業なら社長や管理職、行政なら首長が一人で意思決定をしたら、その方が早いでしょう。
しかし、その帰結が何をもたらすのか?
と考えると、当事者である社員や住民が自ら考える機会、意思決定に参加する機会を奪います。
そうなれば、人は「納得」できません。
納得できなければ、自分ごととして主体的に「動く」意欲を失います。
それは同時に、集団活動に不可欠な「協力」するという行為がなくなることを意味します。
協力があってはじめて、組織は生産性を上げ、持続的に発展することができます。
それが、「遠くへ行きたければみんなで行け」の意味です。
みんなの力を引き出し、組織全体が成長していくために、ファシリテーションが必要なのです。
なぜ、今、ファシリテーションか?
今の時代にファシリテーションが求められているのはなぜでしょうか?
私なりの解釈を簡単に言えば、「人口増の時代が終わり」、「人がより自由になった」からだと思います。
昔の企業・組織では、「作れば売れる」ため社員の意見は聞かなくても、「上位下達」でも人は辞めずに回りました。
しかし、状況が変わった今は、特に若い社員は、自分が尊重されないとわかれば、その会社に未来がないと思えばすぐに辞めます。
また、地域住民の立場も昔よりは強くなり、人口減少による財政難も加わって、行政主導だけでは地域経営が立ち行かなくなりました。
さらに、組織や地域を構成する人々の属性や価値観も多様になりました。
そんな中で、限られたメンバーの力を引き出し、バラバラな個人をつなぎ、組織・集団をまとめて生産性を高めていくことが必要とされています。
そうした時代背景のもとで、今、ファシリテーションという機能が、様々な場で求められているのだと思います。
人間関係を築き、対話の場をつくり、人々の主体性を引き出しながら上手に協働を促していく。
そんな役割を担う人が社会に増え、協働の関係がさらに広がっていくことを願っています。