「木こりが刃を研がないワケ」~若手社員の意外な反応

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先日、私が所属している経営者の会のある社長さんからこんな話を聞きました。

社員が主体的に動く自律型組織を目指して社内研修を始めたとのこと。

その外部講師が、私もよく使う「木こりのジレンマ」の話をしたところ、若手社員等から思わぬ反応が返ってきたそうです。

刃を研がずに木を切り続ける木こり。

見かねて、隣人が「刃を研いだらもっとたくさん切れますよ」と伝えたところ、

その木こりは「忙しくて刃を研いでいる暇なんかない」と答え、木を切り続けたというお話。

「刃を研ぐ」は、目の前の仕事ではなく、その仕事を効率的・生産的にするための準備のこと。

道具のメンテナンスだけではなく、勉強、計画づくり、話し合い…組織では色々あります。

この話は、目先のことばかりにとらわれず、「急ぎではないが重要なこと」、つまり、先を見据えた「投資」に時間を割きましょうという教訓ですね。

私の今までの経験では、「この木こり、どう思いますか?」と聞くと、大抵の受講者さんは「自分もやってるなぁ」とか「ちょっと手を休めて刃を研ぐと楽にできるよと伝えます」等と答えます。

ところが、会社の研修では、社員からこんな答えが返ってきたそうです。

「刃を研ぐことを教えなかった(木こりの)親方が悪い」。

…木こりが刃を研がないのは、刃を研がなきゃいけないよ、研ぎ方はこうだよ、と親方が教えていないから。

つまり、会社で言うと、上司や社長が教えていないからだと言うのですね。

私は、予想外の答えに一瞬絶句した後、爆笑してしまいました。

その社長さんは、自虐気味に「まぁ、自律型でない方が幸せかもしれませんよね」と苦笑してました。

「刃を研ぐ」必要があることも教えないといけないの?

それぐらい、自分ごととして考えられないの?

お嘆きの声が他の経営者や管理職の皆さんからも聞こえてきそうです。

いや、しかし、です。

この記事の趣旨は彼らを「ディスる」ことではありません。

ファシリテーションとは「相手に合わせて関わる」ということ。

彼らの目線で考えてみると、確かにそういう「当たり前すぎて、誰も言ってないこと」を、きちんと初期に教育しないといけないのかもしれないと思いました。

過去、ある企業の2年目社員への研修で「タイムマネジメント」の項目でこの事に触れた時、「今まで勉強するとか考えたことがなかった」という声を複数聞いたことを思い出します。

私自身、『7つの習慣』を読んだからこそ、この「歯を研ぐ」(同書では「第2領域」)ことの大事さと具体的な行動を意識できました。

もちろん、「誰が悪いか」という話ではなく、自律的に動いてほしかったら、相手の年齢や段階に合わせて「自律とはどういうことか」を一から、具体的に教えないといけないのかもしれない、という話です。

みなさんの現場でも、「当たり前すぎて言ってないこと」はないでしょうか?

知り合いのある社長さんも「当たり前のことができるようになるまで言い続ける」と仰ってました。(その会社は着実に発展し続けています)

釈迦は常に相手の理解度に合わせる「対機説法」で教えを問いたと言われます。

上手な教育とは、大事なことを辛抱強く、相手に合わせて説き続けることかもしれません。

「刃を研がない木こり」への意外な反応から、そのようなことを思いました。

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この記事を書いた人

井坂 泰成

合同会社ひとのわ代表社員。ファシリテーター・人材育成コンサルタント。東京大学文学部卒。NHKディレクター、国際協力NGO・JICA、コンサルティング会社等を経て創業。ファシリテーションスキルと元マスコミならではのわかりやすい説明力で、組織や地域における「対話」の支援とファシリテーションや支援型リーダー育成研修等の人材育成を行っています。