「社員研修にそれなりのお金をかけたのに、正直あまり変わった気がしない…」
中小企業の経営者からこの言葉をお聞きすることが、本当に多くあります。
マナー研修、リーダーシップ研修、コミュニケーション研修…。
テーマを変え、講師を変え、毎年取り組んでいる。
受講直後は「いい研修でした」という感想も返ってくる。
でも、1ヶ月もすれば元通り。
「研修って、結局こんなものか」と思っている方も、少なくないのではないでしょうか。
しかし、研修そのものが無意味なわけではありません。成果が出ない会社には、ある共通点があるのです。
この記事では、200社以上の組織づくりを支援してきた経験から、「研修をやっても変わらない会社」に見られる特徴と、その根本的な原因について解説します。
6ヶ月の研修が、なぜ「なかったこと」になったのか
あるとき、ある企業の社長から「営業社員のやる気を引き出してほしい」というご相談をいただきました。
詳しくお話を聞くと、実はこの会社では、以前にも別のコンサルタントに依頼して営業力強化の研修を実施していました。
6ヶ月にわたる本格的なプログラムで、費用もかなりの額だったそうです。
「で、どうでしたか?」とお聞きすると、社長は苦い顔でこうおっしゃいました。
「最初のうちは少し変わったんだけど、結局、長くは続かなかったんだよね」
なぜ、6ヶ月もかけた研修の効果が持続しなかったのか。
社員の方々にもお話を聞く機会がありました。
そこで見えてきたのは、社員にとって研修が「社長に言われてやらされたもの」でしかなかったということです。
社長と社員の間に信頼関係が十分に築けていない状態で、社長の号令のもとに始まった研修。
社員にしてみれば「やらされ感」だけが残り、学んだことを自ら実践しようという気持ちにはなれなかった。
6ヶ月、高額な費用、しっかりしたプログラム。
それでも、社員の心が動いていなければ、効果は続かない。
これは研修の質の問題ではなく、もっと根本にある問題でした。
研修で「個人」は変わる。でも「組織」は変わらない
前提として、研修には価値があります。
受講者個人が新しい知識やスキルを得たり、自分のマネジメントを振り返るきっかけになったり。研修の場で「ハッとした」「気づきがあった」という声は、私自身もたくさんいただいてきました。
では、なぜ「組織が変わった」という実感につながらないのか。
それは、多くの研修が「個人の能力を上げる」ことを目的に設計されているからです。
たとえば、管理職研修で「傾聴」を学んだとします。受講者本人は「部下の話をもっと聞こう」と思って職場に戻ります。
ところが、職場に戻ると、日々の業務に追われ、上司からは「結果を出せ」と言われ、部下に「ちょっと話を聞かせて」と声をかける余裕がない。あるいは、勇気を出して1on1を始めても、周囲の管理職は今まで通りのやり方で、自分だけ浮いてしまう。
結果、学んだことを実践し続けられず、元に戻る。
これは本人の意志が弱いからではありません。個人が変わっても、その人を取り巻く「環境」や「関係性」が変わっていないことが原因です。
研修で変わらない会社に共通する”ある特徴”
先ほどの営業社員の話を聞いて、私は社長にこう提案しました。
「研修の前に、まず社長と社員の皆さんが本音で話せる場をつくりませんか」
すると、社長からは「いや、そういうことは求めていない。社員のスキルを上げてくれればいいんだ」と言われました。
結局、ご依頼通り研修は実施しました。
しかし、正直に申し上げると、社員の皆さんの根本的な変化にはつながりませんでした。
これは特殊な例ではありません。別の会社でも、似たようなことがありました。
ワンマン型の社長が、社員に主体性を持ってほしいと研修を導入したケースです。
研修の中では社員同士の対話をし、職場づくりに必要なマインドやスキルを学んでいただき、それなりの効果はありました。
しかし、社長と社員の関係性——社長が決めて社員が従うという構図——は変わらないまま。
社員が主体性を発揮しようにも、率直に意見を言い、自発的なアイディアを実行していくような場がなく、
研修で得た学びを職場で活かせる余地が、そもそもなかったのです。
こうした経験を重ねる中で、私が確信したことがあります。
研修の効果が定着しない会社には、「社員同士、あるいは社長と社員が本音で話す場がない」という共通点があるということです。
少し意外に感じるかもしれません。でも、考えてみてください。
研修で学んだことを職場で活かそうとするとき、そこには必ず「周りの人との関係」が絡みます。
部下との関わり方を変えるにも、会議の進め方を変えるにも、一人では変えられない。周囲の理解や協力が必要です。
ところが、職場に「お互いの考えや感じていることを率直に話せる場」がなければ、一人で学んだことを一人で抱えたまま、いつの間にか風化していく。これが、研修効果が消えていく構造です。
逆に言えば、研修の効果が持続する会社には、必ずと言っていいほど「社員同士が対話する文化」があります。
「教育」と「風土」は別の問題
ここで一つ、大切な視点をお伝えします。
社員教育と組織風土は、そもそも別のアプローチが必要だということです。
多くの経営者は、組織に課題を感じたとき、まず「教育」に目を向けます。
「社員のスキルが足りない」「意識が低い」と考え、研修やセミナーで解決しようとします。
もちろん、それが正解の場合もあります。
しかし、課題の本質が「組織の風土」にある場合、教育だけでは根本解決にならないのです。
わかりやすく整理すると、こうなります。
「教育」で解決できること: 知識・スキルの習得、個人の気づき、モチベーションの一時的な向上
「教育」では解決しにくいこと: 社員同士の関係性、職場の空気、暗黙のルール、「言っても無駄」という諦めの文化
後者は、いわば組織の「土壌」の問題です。いくら良い種(研修)をまいても、土壌が痩せていれば芽は出ません。
先ほどの営業社員の会社も、まさにこのケースでした。
社員のスキルが足りないのではなく、「どうせ社長が決めるのだから」という諦めの空気が職場に漂っていた。
その土壌を変えないまま、いくら種をまいても育たなかったのです。
では、「風土」はどうすれば変わるのか
研修で個人を変えるのではなく、社員同士の「関係性」に働きかけること。
これが組織の風土を変える出発点です。
具体的に言えば、「対話の場をつくる」ことです。
ここで言う「対話」は、単なる話し合いや会議とは違います。正解を決めるための議論でもありません。
お互いの考えや価値観、感じていることを、否定せずに聴き合う。そういう場のことです。
「そんなことで本当に変わるの?」と思われるかもしれません。
しかし実際に、対話の場を継続的に設けることで、社員同士の理解が深まり、協力関係が生まれ、結果として「自分たちで考えて動く組織」に変わっていった企業を、私は数多く見てきました。
その詳しい事例やメカニズムについては、今後の記事で順を追ってお伝えしていきます。
まとめ
研修をやっても組織が変わらない。その原因は、研修の質でも、社員のやる気でもなく、「組織の風土」にアプローチできていないことにあります。
教育で「個人」を変えようとするだけでなく、対話を通じて「関係性」と「風土」を変えていく。
この視点を持つことが、組織を根本から変えていく第一歩です。

