「人が辞めない組織」は、採用ではなく”信頼”から

職業柄、経営者の組織づくりの記事をよく読むのですが、今回は、とても印象的な記事を目にしました。

人が辞めない組織をつくった社長の赤裸々な記録です。

ご紹介しつつ、ひとのわとしての視点でコメントしたいと思います。

BizHint 連載「組織改革 その根幹」第11回「『優秀な人材を採用すればうまくいく』は経営者の幻想。人が辞めない組織を作ったリーダー『鮮烈な一言』での気づき」

離職率を下げるには?

皆さんの会社が、もし離職率が高かったら、どんな手を打ちますか?

優秀な人を採用する?

優秀な人事担当者をスカウトする?

給料を上げる?

離職率を大幅に下げたある社長が打った手は、どれも違っていました。

離職率38%から11%へ

紹介するのは、デジタル広告の運用を支援する株式会社Shift(従業員51名)の事例です。

同社は2017年頃から、キャリア志向の高い優秀な人材を積極的に採用しました。

ところが、2〜3年でスキルを身につけると、次々と転職していきました。

さらに2022年頃には、一部の社員が顧客先に転職して仕事を持ち出し、残った社員に経営陣への不信をあおる事態に。

現場と役員で組織は二分し、離職率は38%に達しました。

それが今では11%。

社員の当事者意識も高く、人が減っても売上は伸び続けているそうです。

社長がやった7つのこと

どん底から、何をしたのか。

岡本哲郎社長が取り組んだことを並べてみます。

⒈「すべて私の責任」と謝った 一部社員の反発がきっかけでも、根本は経営者の技術と経験の不足にあると認め、社員に謝りました。

⒉ 本音を聞く場をつくった 「厳しいことでも、何でも言ってくれ」と社長自ら1on1を行い、匿名アンケートも実施しました。

⒊ 出た声に、必ず結論を返した どんな些細な不満にも「できる」「できない」「これならできる」と答え、曖昧にしませんでした。

⒋ すべての情報を開示した 決算書から社長の給料、経費の領収書まで、見たい人は誰でも見られるようにしました。

⒌ 利害関係のない1on1に変えた 直属の上司ではなく、業務から独立した「コミュニケーションマネージャー」が担当し、人生設計まで話を聴いています。

⒍ 上司・部下の関係をなくした 「ワンチーム制」を導入し、マネージャーは上下関係ではなく「役割」としました。

⒎ カルチャーをつくった 経営陣で「7つのマインドセット」を定め、すべての意思決定の基準にしました。採用も、これに共感できるかどうかで選ぶ「カルチャーフィット」に切り替えました。

こうして並べると、一つひとつは目新しい施策ではありません。

けれども、すべてに通じているものがあります。

それは「社員との信頼関係を築き直す努力」です。

聞くだけでは、信頼は戻らない

特に注目したいのは、「必ず結論を返した」ことです。

声を聞く仕組みは、多くの会社にあります。

でも、聞いたまま返事がなければ、社員は「言っても無駄だ」と学んでしまいます。

Shiftでは、意見を言えば必ず何かの返事が返ってくる。

社員の方も「曖昧にされることは、まずありません」と話しています。

信頼は、聞くことよりも、応え続けることで積み上がっていくのだと思います。

当時新入社員だった社員の方は、社長との1on1をきっかけに、こう気づいたそうです。

「僕たち、文句ばかり言っていたけれど、実際に会社のために何か動いたのだろうか」

今では、現場のメンバーが自分から「面接に加えてください」と手を挙げるといいます。

主体性は、信頼の上に育つのですね。

心理的安全性よりも「組織信頼感」

最近は「心理的安全性」という言葉をよく耳にします。

Shiftでも、毎月の社員アンケートで、心理的安全性はほぼ満点だそうです。

ただ、ここで順序を間違えてはいけないと思います。

心理的安全性を高める施策から始めたわけではありません。

まず経営者が謝り、聞き、応え、すべてを開いた。

その結果として、心理的安全性がついてきたのです。

ひとのわでは、経営者や会社への信頼を「組織信頼感」と呼び、組織づくりの土台として大切にしています。

この事例は、経営者が信頼されることが、組織づくりにとって決定的に大事だということを、よく表していると感じました。

ひとのわの視点

一つだけ、専門家として付け加えたいことがあります。

Shiftは採用で、人を支えることが好きな「サポーター気質」の人を重視しているそうです。

価値観を共有することは、とても大事です。

ただ、価値観と気質は別のものです。

「お客様に誠実であること」は、挑戦が好きな人も、分析が得意な人も、共有できます。

同じ気質の人ばかりになると、新しい挑戦や、冷静な指摘が出にくくなるおそれがあります。

価値観はそろえ、気質は多様に。

これが、長く強い組織をつくるうえでのポイントだと考えています。

まとめ

離職を止めたのは、採用ではなく信頼の回復だったー。

信頼は、制度ではなく、応え続ける行動でつくられます。

御社の「組織信頼感」はどの程度ありますでしょうか?

この記事が、組織づくりの参考になれば幸いです。

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この記事を書いた人

組織づくりと人材育成のことなら、実績あるファシリテーターにお任せを。自走型・自律型組織への組織変革、チームビルディング、リーダー育成、社員教育、会議・ミーティングの活性化をプロのファシリテーションの技術で実現します。心理的安全性を向上させ、社員の主体性とやる気を引き出し、持続的に発展する強い組織づくりを伴走支援します。神戸を拠点に関西、東海、全国で対面・オンラインでの研修に対応しています。

井坂 泰成

合同会社ひとのわ代表社員/組織開発ファシリテーター。一人一人が主体的に動いて協力する「自走型型組織」づくりの対話支援と人材育成を行っています。東京大学文学部卒。NHKディレクター、JICA、コンサルティング会社等を経て創業。神戸市在住。