前回の記事では、愛知県の製造業M社の対話型組織開発プログラムの第2回についてご報告しました。
「知らなかった」という言葉が部屋に溢れたあの日から、約1ヶ月。
先日、第3回ワークショップを実施しました。
第1回・第2回では、部門を越えてお互いを認め合い、苦労を知り、話し合える関係の土台を築いてきました。
第3回では、さらに一歩踏み込みます。
真の「連携」に向けて、具体的な課題に取り組みます。
その切り口は、「情報のやり取り」。
4部門の工程に必要な情報が、今どう流れていて、本当はどう流れるべきか?
前回垣間見えたこの避けて通れない問題を本音で話し合い、「あるべき姿」を描くことが、今日のテーマでした。
「情報」の現状を、正直に出し合う
今回は、4部門それぞれが「受け取っている情報」と「送っている情報」の現状と理想をシートに書き出し、全体に発表するところから始まりました。
情報の「内容」「タイミング」「入手方法」——この三つの軸で、今はどうで、本当はどうありたいか。
シンプルな問いです。でも、やってみると、これがなかなか容易ではありませんでした。
「欲しい情報」を正直に伝えようとすると、どうしても前の工程への要望になります。
「こういう情報を、もっと早く、もっと正確に届けてほしい」——ともすれば批判的なニュアンスも含みます。
言われた側には、言い分があります。
「それは、こういう事情があって……」。
自部門を守ろうとする反論も出てきます。
場に、少し緊張感が走る瞬間がありました。
「正解を探すよりも、理解しあう」
それでも、誰も相手を責めようとしているわけではありませんでした。
困っているから、伝えている。
よくしたいから、話している。
そのことは、1・2回目の対話の経験から、場の全員がわかっていました。
だから対話は、次第に、「責める」方向ではなく、「どうすればよくなるか」という方向に向かいました。
チェックアウトで、こんな言葉がありました。
「今までは探り合いの感じがあったが、今日はこういう情報を出してもらえるとうちもこうできると、協力的に話せた。『正解を探すよりも理解しあう』ことを大事にしていきたい」
この一言が、今日の場を言い表していたと思います。
他にも、こんな声がありました。
「今まで、伝え方が一方的だった。情報の出し方を、これからは聞いていきたい」
「実は知らなかった。知ってるものだと思って進めていたことが、いろいろあった」
「自分に思い込みがあった。複数の部署と話すことで、全体を知ることができた」
情報のやり取りという、避けて通れないテーマで本音を出し合ったからこそ、見えてきた現実がありました。
「自分たちで決める」という経験
各部門の発表と対話が終わった後、場の構成をいくつか変えながら、合意形成に向けた議論を重ねました。
最初は4部門が混ざったグループで、理想の情報連携について意見を出し合う。
次のセッションでは、グループの一つを部門長だけで構成し直しました。
「責任を持って決める立場の人間が、腹を括って話し合う」——そのための場です。
そして最後に、各部門グループに戻り、他部門から聞いてきた声をもとに、自部門としての改善策をまとめました。
この流れは、当初の設計通りではありませんでした。
実際に場を見ながら、「今はこの構成の方がいい」と判断してその場で変えた部分があります。
支援者であるファシリテーターは、事前に決めた流れをそのまま押し通せばいいというわけではありません。
組織開発で大事なことは「当事者中心」です。
当事者である参加者の皆さんにとって無理なく、そして意味のあるやり方に、その場の状況に合わせて変える。
それが、今日のもう一つの大事な出来事でした。
「言い方ひとつで、受け取り方が変わる」
チェックアウトで印象的だったのは、「伝え方・聞き方」に関するコメントの多さでした。
「言い方に気をつけてコミュニケーションを取りたい」
「同じことでも、言い方ひとつで受け取り方が違ってくる」
「後工程や周りが、どんな情報を求めているのかを考えていきたい」
「人に対する話し方、教育の仕方が勉強になった」
これらの気づきは、「情報を流す」というテーマで本音を出し合ったからこそ、生まれたものだと思います。
業務の改善を話し合ったはずが、いつの間にか「どう伝えるか」「どう聴くか」というもっと根本的なところに辿り着いていました。
「研修」とは異なる「体験」からの学び
コミュニケーションの大切さや「伝え方」や「聴き方」のスキルを教える研修は数多くああります。
でも、今日の参加者が「言い方ひとつで受け取り方が変わる」と実感したのは、スキルを教わったからではありません。
自分たちの仕事のリアルな課題を、リアルな相手と話したからです。
前工程への要望が、少し緊張感を孕んだ瞬間があったからこそ、「どう言えばよかったか」が身に沁みた。
研修室でロールプレイをしても、なかなかそうはなりません。
研修は、基本的に知識をインプットする場です。
もちろん、それはそれで必要な場面があります。
でも、人が本当に変わるのは、知識を得たときではなく、何かを「体験」したときではないでしょうか。
対話型の組織開発がもたらすのは、まさにその「体験」です。
リアルな話し合い、リアルな緊張、リアルな感情のやり取り。
結論もどうなるかわからない場です。
そこから生まれる学びは、テキストに書かれた知識とは、深さが違います。
「情報を流す」という生きたテーマが、「伝え方・聴き方」という深い学びを引き出した。
それが、対話型の組織開発の力だと思っています。
M社の16人は今日、「自分たちで情報連携のあり方を決める」という経験をしました。
プログラムはまだ折り返し地点。でも、確かな変化が積み重なっています。
次回もまたご報告します。

