愛知県の製造業M社の対話型組織開発プログラムの事例です。
以前は、第3回についてご報告しました。
「正解を探すよりも理解しあう」という言葉が生まれたあの日から、ワークショップを2回重ね、先日、第5回を実施しました。
今回のテーマは、「学びを深める」。
これまで出てきた課題に対して、各部門・経営層が、自らと部門の成長のために何をどう学んでいくか。
その計画を自分たちの言葉でつくる。それが今日のゴールでした。
まずは、「学ばなかったこと」から
計画を立てる、と聞くと、すぐに「目標」や「やること」から話し合いを始めたくなります。
でも今回、私はあえて遠回りをしました。
最初にお願いしたのは、計画づくりではありません。
「わかっちゃいるけど、学ばなかった経験」を、一人ひとりに振り返ってもらうことでした。
人は、必要だとわかっていることを、なぜかやらないままにしていることがあります。
これは怠けているのではなく、たいてい「今のやり方のままでいい理由」を、本人も気づかないうちに抱えているからです。
実は、私の考えには理論的裏付けがあります。
ハーバード発の「イミュニティ・トゥ・チェンジ(変革への免疫)」という理論です。
人が、わかっているのに変われないのは、意志が弱いからではなく、変わらないことを守る「免疫」が働いているから、というのがこの理論の考え方です。
そして、その免疫を解くには、まず本人が自分の免疫に気づく必要があります。
だから私は、計画づくりより先に、この「気づき」から始めることにしました。
人を開くには、自分の「自己開示」から
そのために、まず私自身の「学ばなかった」話をしました。
大学時代に授業にろくに出ず、留年し、あげく卒業も危うくなったこと…。
今思えば、目標を見失っていたということもお話ししました。
決して格好いい話ではありません。
支援する側が先に格好悪い話をする(自己開示)ことは、心理的安全性をつくる一つの方法です。
自分をさらけ出すことで、「私もさらけ出していいんだ」と思わせることができます。
さらに今回は、社長や役員の方々にも、同じ問いに向き合っていただきました。
経営層が自分の学ばなかった経験を、自分の言葉で語る。
その姿を見て、社員の皆さんの自己開示も、一段と進んだように感じます。
問いはステップbyステップで
問いは、人生の話から仕事の話へ、少しずつ近づけていきました。
「人生で、わかっちゃいるけど学ばなかった経験は?」
「では、仕事の面で学ばなかった経験は?」
「なぜ、避けていたのでしょうか?」
いきなり仕事の失敗を聞かれると、人は身構えます。
まず誰もが持っている人生の話から始めることで、抵抗の少ないところから本音に近づいていきます。
これが、今回私が意識した場づくりの工夫です。
「窮地にならないと学ばない」——本人の口から出た気づき
この対話のあと、こんな言葉が並びました。
「いつも窮地になってから学ぶパターンだった。これからは、もっと前向きに学んでいきたい」
「必要性や危機感がないと学ぼうとしないことが、自分の課題だと思いました」
「必要にならなきゃ勉強をしなかった。それを必要だと自己暗示をかけて学んでいきたい」
誰かに指摘されたのではなく、自分自身の口から、自分の「学ばないパターン」が語られています。
そして、それに気づけたからこそ、「これからは学びたい」という意識が芽生えたのでした。
ここが、今日一番大事な瞬間だったと思っています。
人から言われたことより、自分で気づいて言葉にしたことの方が、人は大事にします。
自分で認めたからこそ、計画が自分たちのものになる
その後、各部門・経営チームは、自分たちの学び方を目標・内容・期間・手段として言葉にし、発表し合いました。
長年ベテランに偏っていた知識をどう共有するか、価格の考え方をどう揃えるか。
中身は部門ごとに違いましたが、どの計画にも共通していたのは、「やらされ感」のなさでした。
先に自分の学ばなかったパターンを認めているので、計画が他人事になりようがないのです。
とはいえ、今回の場で言葉にできたことと、それが実際に現場に根づくことは、別の話です。
自分の課題に気づいて言葉にする。ここまでが今日の成果です。
それが行動として定着するかどうかは、これからの実践と、次回の振り返りにかかっています。
次回は、この計画がどこまで実践されたかをご報告できればと思います。

