前回の記事では、M社の対話型組織開発プログラムの第1回についてご報告しました。
「壁をなくしたい」と、参加者自身の言葉で語られたあの日から、約1ヶ月。
先日、第2回ワークショップを実施しました。
今回のテーマは、「カベ」を越える。
「カベ」はどこにある?
前回のワークショップで、参加者が自ら「壁をなくしたい」と言葉にしてくれました。
ならば今回は、その「カベ」を敢えて取り上げ、正体に向き合う時間をつくろうと考えました。
問いはシンプルに、三つ。
「カベはどこにある?」
「カベはなぜできた?」
「カベが低くなると、どうなる?」
最初の問いに対して、各グループから出てきた「カベ」は大小様々ですが、どれも現場の切実な声でした。
「お互いの仕事がわからない」
「ほしい情報が届かない」
「ルールが守られていない」
「仕事を頼みにくい」
「感謝の言葉がない」
全体で共有したとき、一つの責任者がこう整理してくれました。
「つまり、お互いを知らないということですよね」
その一言で、部屋の空気が少し変わりました。
問題の核心が、自分たちの言葉で静かに言語化された瞬間でした。
初めて語られた「本音の苦労」
午後からは、4つの部門が順番に発表する時間を設けました。
①自部門が苦労していること
②他部門に対して気にしていること
③(一緒に)取り組みたいこと
④その他
これらを、それぞれの部門がホワイトボードにまとめて話す場です。
これが、思いのほか濃い時間になりました。
ある部門は、他部門への”謝罪”を入れていました。
「各工程に無理なお願いをしてしまっていて、申し訳ありません」
「情報の精度が不正確なことがあり、申し訳ありません」
日頃の業務ではなかなか言えない言葉です。
また、ある部門は「④ その他」の欄に、こう書いていました。
「休みの日でも対応してくれてありがとうございます」
これは、別の部門の担当者に向けた感謝の言葉でした。
普段の業務の中で、ずっと感じていたけれど言えなかった「ありがとう」が、ここで初めて声になった瞬間でした。
第1回のワークショップで、ある参加者が「感謝の言葉がない」とカベの一つとして挙げていましたが、今日この場で、その一枚が自然と剥がれました。
部門のカベを越えた対話
そして、その後で、2部門ずつ一対一の対話の時間を持ちました。
「さっきのあの言葉はどういう意味ですか?」
「実は、こういうことをお願いしたい」
「なんとか、あれを改善できないか?」
お互いの発表を聞いてもっと聞きたいと思ったこと、日頃伝えられていない疑問やお願い。
そうした率直な思いが、部門の壁を越えてやり取りされました。
饒舌に話す人もいれば、自部署のことを指摘されて黙っている人もいました。
少し緊張感はありつつも、誰もがお互いに真摯に向き合いました。
まだ完全に本音で話せてはいないかもしれませんが、「カベを壊す」貴重な一歩でした。
「知らなかった」が、これほど集まった
ワークショップの終わりには、16人が円になってチェックアウトをしました。
今日の気づきと、「明日からの小さな一歩」を一人一言ずつ語る時間です。
その言葉の多くに、共通する一語がありました。 「知らなかった」です。
「他部署と交流がないので、知らないことが多かった。とても勉強になった」
「他の部署と情報交換できてよかった。自分がわからなかったことがわかった」
「各現場のことを理解していなかったことがわかった」
「自分自身も情報発信が足りていなかった」
「自分がわからないことを素直に聞いていきたい」
そして、こんな声もありました。
「普段はコミュニケーションを取る人が限られている。他部署の人ともっと話したい」
「濃い内容でした。他部署の人との打ち合わせに、相手のことをよく聞くスタンスで臨みたい」
誰一人、カベを作りたかったわけではありませんでした。
ただ、機会がなかった。きっかけがなかった。
それができると、
「もっと知りたい。知ってほしい」という欲求が生まれました。
「知る」ことから、すべては始まる
今回のワークショップを通じて、私が最も印象に残ったのは、「知る」という行為の力です。
相手の仕事が見えない。 相手の苦労が見えない。 相手が何を感じているかが見えない。
そこから「カベ」は生まれます。
でも、見えた瞬間に、人の態度は変わります。
「申し訳なかった」「ありがとう」「もっと話したい」——そうした言葉が、自然と出てくるようになります。
難しい研修内容も、巧みなコミュニケーション術も必要ありません。
ただ「知り合う場」をつくること。 それだけで、人は、組織は、動き始めます。
M社の16人は今日、「お互いを知らない」というカベを、少しだけ越えました。
まだほんの入口です。でも確かな一歩です。
次回以降もまたご報告します。

