「減点法」で育てられてきた私たち
できて当たり前。 できなかったら指摘する。 それが「指導」だと思っている人は、今でも多いものです。
じつは、この育て方には名前があります。減点法です。
100点からスタートして、ミスをするたびに点が引かれていく。評価の基準が「失敗しないこと」になります。
すると何が起きるでしょうか。 人は「失敗しないこと」に意識を向けすぎて、新しいことに挑戦しなくなります。
怒られないために、目立たないようにする。 「とりあえずこなせばいい」という姿勢が生まれる。
これが、「指示待ち」の正体です。
あるシーン
入社半年の田中さん(仮名)は、プレス機の段取り作業が遅かった。 ベテランの鈴木さんは、田中さんが動くたびに声を上げていました。
「そんな持ち方じゃダメだ!ケガするぞ!」 「何度言ったらわかるんだ!」 「もっと注意しろと言っただろう!」
鈴木さんに悪気はありません。むしろ本気で、事故を防ごうとしていました。
でも田中さんはどんどん萎縮していきました。 鈴木さんが近くに来るたびに、体が固まる。 ミスを恐れて、作業が余計に遅くなります。
ある日、工場長が通りがかりにひと言声をかけました。
「田中、さっきの治具の確認、ちゃんとできてたな。成長してるぞ」
たったそれだけ。 翌日から、田中さんの作業姿勢が変わり始めました。
加点法とは何か
加点法は、「できたこと」「成長したこと」に注目する育て方です。
0点からスタートして、できることが増えるたびに点が加わっていく。 評価の基準が「成長すること」になります。
わかりやすく言えば、コップに7割の水が入っているとき、どこを見るか、という話です。
「3割も足りない。なぜ満タンにできないのか」と見るのが減点法。
「7割はある。あとの3割は、こうすれば増やせる」と見るのが加点法です。
どちらも同じコップ、同じ水の量。でも、どこに目を向けるかで、関わり方がまったく変わります。
人は、認められるともっとやろうとします。 「自分にはできる」という感覚(自己効力感)が育ち、主体性が生まれます。
これは感情論ではなく、心理学的に証明されていることです。
バンデューラの「自己効力感」の研究、スキナーの「強化理論」——いずれも、ポジティブなフィードバックが行動を促進することを示しています。
ポジティブ・フィードバックの3つのコツ
「褒めればいいんですよね?」と言う人がいます。 でも、ただ「すごいね」「えらいね」と言うだけでは不十分す。
① 事実に基づいて具体的に伝える
「よかったよ」ではなく、「さっき治具をセットする前に、2回確認してたな。あれが大事なんだ」と具体的に伝えます。
感想ではなく、見ていた事実を言葉にすること。それが相手への信頼の証にもなります。
② タイミングを逃さない
できた直後に伝えることが大切です。 時間が経つほど、効果は薄れます。
③ 「成長」に注目する
「完璧にできた」だけを褒めません。 「先週より動きが落ち着いてきた」「少しずつ正確になってきた」——以前との比較で伝えると、継続的な成長を促せます。
「でも、安全管理は厳しくしないといけないでしょ?」
もちろんです。ミスを放置するのは育成ではありません。命に関わる現場なら、なおさらです。
ポイントは順番です。
まず「できていること」を伝えてから、「もっとよくなる点」を伝える。
これを「サンドイッチ型フィードバック」と呼ぶこともあります。
できた → 改善点 → 期待
この順番だけで、受け取る側の心理は大きく変わります。 防衛的にならず、素直に聞けるのです。
冒頭の鈴木さんも、工場長の言葉を見て少しずつ変わっていきました。
厳しさは必要です。
でも、正しい厳しさとは、「求められる基準からぶれない」ことであって、「感情的に怒る」ことではありません。
「できていることと、できていないこと」を具体的に伝えればいいのであって、「叱る」ことは不要です。
あくまで、できたことを認めながら「やってほしいこと」を伝えることが相手の成長の近道であり、安全管理も早く実現できます。
まとめ
- 減点法は「失敗しない人」を育て、加点法は「挑戦する人」を育てます
- ポジティブ・フィードバックは、具体的に・すぐに・成長に注目して伝えます
- 指摘するときは「できていること→改善点→期待」の順番で
育成は「何を教えるか」もさることながら「どう関わるか」が大事です。
「できた!」の積み重ねが、人を動かし続ける力になります。

